
近所の公園に行ったのは、確か先週の木曜日だったと思う。
うちの柴犬、名前はハチなんだけど、このところ散歩コースがマンネリ化してて。いつもの住宅街をぐるっと回って帰ってくるだけの30分。ハチの顔を見てたら、なんとなく「またこれか」って言ってる気がして、それで急に思い立った。車で10分くらいの場所にある、割と広めの公園。平日の昼過ぎなら人も少ないだろうし、リードを長めにして走らせてあげられるかもしれない。
着いてみたら予想通り、親子連れが二組くらいと、ベンチで本を読んでるおじいさんがいるだけ。空は抜けるような青で、風が吹くたびに木の葉がさらさらって音を立てる。気温は25度くらいかな、Tシャツ一枚でちょうどいい感じ。ハチはもう車から降りた瞬間に尻尾をぶんぶん振り回してて、鼻をひくひくさせながら芝生のにおいを嗅ぎまくってる。
芝生エリアに入ってリードを伸ばしてやると、ハチは一目散に駆け出した。柴犬って意外と足が速いんだよね。あの小さい体のどこにそんなエネルギーが詰まってるのか不思議なくらい。最初はただ走ってるだけだったんだけど、そのうち落ちてた小枝を見つけて、くわえて戻ってきた。投げてほしいらしい。
投げた。
また拾ってくる。投げる。拾ってくる。これが延々と続く。正直、10回目くらいで飽きた。人間の方が先に飽きるんだよ、こういうの。でもハチは全然飽きてない。むしろテンション上がってる。息を切らしながら、目をキラキラさせて枝をくわえて戻ってくる。その顔がもう、嬉しくて仕方ないって感じで。
そういえば昔、大学生の頃に付き合ってた人とこの公園に来たことがあったな。デートって言うほどのものでもなくて、ただなんとなく歩いてベンチに座って、コンビニで買ったアイスを食べただけ。あの時は「公園デートってなんか地味だな」とか思ってた気がするけど、今思えばあれはあれで悪くなかった…かもしれない。まあ、どうでもいいか。
ハチが急に立ち止まって、遠くを見つめてる。何かいるのかと思ったら、カラスが芝生の上を歩いてた。ハチは低い姿勢になって、じりじりと近づいていく。狩猟本能ってやつなのかな。でもカラスの方が一枚上手で、ハチが飛びかかる直前にふわっと飛んで木の枝に止まった。ハチは木の下でキュンキュン鳴いてる。届かないって分かってるのに諦めきれないみたい。
それから水を飲ませて、また走らせて。芝生に寝転がってみたら、ハチも隣に座った。舌を出してハァハァ言ってる。喉の奥からゴロゴロって音がする。満足してるんだろうな。空を見上げると雲がゆっくり流れてて、飛行機雲が一本、まっすぐ伸びてた。風に乗って誰かの家のカレーの匂いがした。
帰り道、ハチは車の後部座席でぐっすり眠ってた。家に着いても起きなくて、抱きかかえて部屋まで運んだ。普段はすぐ起きるくせに、この日は本当に疲れたみたい。
次の日の朝、ハチはいつもより30分も長く寝てた。起きてきた時の顔がなんとなくだるそうで、「昨日やりすぎたかな」ってちょっと反省した。でも夕方になったら元気を取り戻して、またリードを持ってこようとするから、結局懲りてないんだと思う。
あの公園にはそれから二回行ってる。毎回同じように枝を投げて、走って、寝転がって。特別なことは何もない。でも帰る時のハチの顔を見ると、連れてきてよかったなって思う。
来週も天気が良かったら、また行くかもしれない。行かないかもしれない。


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