
公園で柴犬と遊ぶって、思ってたより難しい。
最初にリードを外したのは去年の4月だったと思う。桜が散りかけてて、芝生に花びらが張り付いてた。うちの柴犬、名前は「まる」っていうんだけど、もう3歳になってもリードなしで遊ばせたことがなくて。ドッグランとかじゃなくて、普通の公園で自由にさせるのが怖かったんだよね。呼んでも戻ってこなかったらどうしようとか、他の犬に突進していったらどうしようとか、そういう心配ばっかりしてた。
でもあの日は天気が良すぎて、青空が眩しくて、風も穏やかで。朝の10時くらいだったかな、人もまばらで、犬連れも少なくて。「今日しかない」って思ってリードを外した瞬間、まるは一瞬固まって、それから猛ダッシュで駆け出していった。柴犬って走るとき、耳が後ろにぺたんとなって、尻尾が風になびくんだよね。あれ見てると、ああこの子こんなに速かったんだって初めて気づく。
追いかけながら「待て!」って叫んだけど、まるは全然聞いてない。芝生を蹴って、木の周りをぐるぐる回って、見たこともないくらいテンション上がってる。私は息切れしながら必死に追いかけて、靴の中に砂が入ってジャリジャリするし、汗が額に滲んでくるし、もう最悪。
ふと気づいたら、まるが立ち止まってこっちを見てた。
舌を出してハァハァしながら、「なに?」みたいな顔でじっとこっちを見てる。私が近づいても逃げないし、むしろ尻尾振ってる。ああ、これ遊んでほしいんだって分かった瞬間、なんか力が抜けた。怖がってたのは私だけで、まるはちゃんと分かってたんだよね、ここが安全な場所だって。
そういえば前に、友達が飼ってるゴールデンレトリバーと一緒に遊ばせようとしたことがあって。あれは失敗だった。体格差がありすぎて、まるが完全にビビって私の足元から離れなかった。柴犬ってプライド高いから、怖いときは意地でも吠えないんだよね。ただひたすら固まる。あのときの情けない顔、今でも思い出すと笑える。
公園で遊ぶようになってから、まるの表情が変わった気がする。家の中だと基本的に寝てるか、おやつ待ってるかのどっちかなんだけど、外に出ると別人みたいに活発になる。ボールを投げると全力で追いかけて、持ってくるんだけど、渡すのは嫌っていう謎のこだわりがあって。咥えたまま私の周りをぐるぐる回って、「取ってみろよ」みたいな顔してる。取ろうとすると逃げる。この遊び、何が楽しいのかいまだに分からない。
日差しが強い日は、木陰で休憩する。芝生に座ると、まるが隣に来てドサッと倒れ込む。柴犬って暑がりだから、舌を出して呼吸が荒くなってるときは無理させちゃダメなんだよね。私が持ってきた水筒の蓋に水を注ぐと、ペチャペチャ音を立てて飲む。その音が妙に心地よくて、ぼーっと空を見上げたりする。
近くのベンチに座ってるおじいさんが、いつも「元気な犬だねぇ」って声をかけてくる。そのおじいさん、昔は柴犬を飼ってたらしくて、「うちの子もそうだった」って目を細める。犬の話って、知らない人とでも自然に会話が続くから不思議。
最近は、リードを外すのが怖くなくなった。というか、外さないと物足りなくなった。まるが全力で走ってる姿を見ると、ああこれでいいんだって思える。呼べば戻ってくるし、他の犬にも適度な距離を保つし、思ってたより賢かった。私が心配しすぎてただけ。
公園の帰り道、まるは疲れてるくせに、また明日も来たいって顔で振り返る。
そういう顔されると、また連れてきちゃうんだよね。


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