
柴犬を飼い始めたのは去年の秋口だった。
ペットショップで見かけたあの子の、くるんと巻いた尻尾とつぶらな瞳に完全にやられて、気づいたら契約書にサインしてた。名前はコタロウ。我が家に来た初日、ケージの中でぶるぶる震えてる姿を見て「守ってあげなきゃ」なんて思ったんだけど、それから三日後には家中のスリッパが破壊されてた。柴犬って、見た目のかわいさに反して結構な暴れん坊将軍なんだよね…。
最初に驚いたのは抜け毛の量。いや、犬を飼うなら毛が抜けるのは当たり前なんだけど、柴犬の換毛期はマジで尋常じゃない。春先になると、床がコタロウ色の絨毯になる。掃除機をかけても、かけても、翌朝にはまた同じ状況。朝7時くらいにリビングに降りていくと、太陽の光に照らされてキラキラ舞ってる毛が見えるんだけど、あれ最初は幻想的だなって思ったけど今はただの悪夢。ブラッシングは毎日やってるつもりなのに、どこから湧いてくるのかわからない。友達が遊びに来ると「お前の服、柴犬になってるぞ」って言われる始末。
それと頑固さ。これは本当に想像以上だった。散歩中、コタロウが「ここで休憩する」って決めた場所からは絶対に動かない。リードを引っ張っても、おやつで釣っても、完全無視。近所の公園に毎朝6時半に散歩に行くんだけど、お気に入りのベンチの前で必ず5分は座り込む。冬の寒い朝でも、夏の暑い日でも関係なし。あの「俺は動かん」っていう目つきを見ると、こっちが根負けするしかない。
ちなみに去年の夏、実家に帰省したときにコタロウも連れて行ったんだけど、母親が「かわいいわねぇ」って言いながら人間用のアイスをあげようとして、慌てて止めたことがある。柴犬っていうか犬全般そうだけど、人間の食べ物は基本NGなものが多い。チョコレートは有名だけど、玉ねぎ、ぶどう、キシリトール入りのガムとかも危険。母は「昔飼ってた犬は何でも食べてたわよ」って言ってたけど、それはたまたま大丈夫だっただけで、今考えるとかなりリスキーだったんだよね。
食事に関しては最初めちゃくちゃ悩んだ。ドッグフードの種類が多すぎて、何を選べばいいのかわからない。グレインフリーがいいとか、国産がいいとか、情報が溢れすぎてて逆に混乱する。結局、動物病院で相談して「プレミアムペットフード・ハナマル」っていうブランドに落ち着いた。コタロウの食いつきもいいし、便の状態も安定してる。ただ値段が…まあ、家族だから仕方ないけど。
社会化訓練っていうのも重要らしい。子犬の頃にいろんな人や犬、環境に慣れさせておかないと、成犬になってから他の犬に吠えまくったり、人を怖がったりするようになる。コタロウは幸い人懐っこい性格だったけど、それでも最初の頃は他の犬を見ると緊張して固まってた。少しずつドッグランに連れて行ったり、友達の犬と遊ばせたりして、今ではそこそこ社交的になった。
でも柴犬特有の警戒心の強さは残ってる。宅配便が来るたびに玄関でワンワン吠えるし、知らない人が家に来ると最初の10分くらいは距離を取って様子を見てる。この警戒心、番犬としては優秀なんだろうけど、ご近所さんには申し訳ない気持ちになる。夜中に外で物音がすると、低い声で「ウゥゥ…」って唸り始めるから、こっちまで緊張しちゃうんだよね。
運動量も結構必要で、散歩は朝晩の2回、各30分は最低限必要。雨の日も台風の日も、コタロウは「散歩行くよね?」って顔でこっちを見てくる。あの期待に満ちた目を見ると、どんなに疲れてても外に出るしかない。休日の朝、二日酔いで頭痛い日でも容赦なし。
健康管理も気を使う。年に一度のワクチン接種、毎月のフィラリア予防薬、ノミ・ダニ対策。動物病院の待合室で震えてるコタロウを見ると、こっちまで緊張してくる。獣医さんには「健康状態は良好ですよ」って言われるけど、毎回の診察料を見ると財布が震える。
トイレのしつけは意外とすんなりいった。最初の一週間は失敗続きだったけど、成功したときに大げさに褒めまくったら、すぐに覚えてくれた。柴犬は賢いから、一度覚えたことはちゃんと守る。逆に言えば、変な癖をつけちゃうとそれも定着しちゃうから、最初が肝心なんだよね。
飼い始めて一年経った今、正直に言うと想像してた「かわいいペットとの生活」とは全然違った。もっと楽で、もっと癒しだけの日々を想像してたけど、実際は責任と手間とお金がかかる。でもコタロウが玄関で尻尾振って待っててくれると、まあいいかって思う。
完璧な飼い主になれてるかはわからないけど、とりあえず今日も散歩に行かなきゃ。

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