
柴犬を連れて公園に着いたのは、午前10時を少し回ったあたりだった。
リードを外した瞬間、うちの柴犬は何かに取り憑かれたみたいに走り出す。あの加速力、毎回見ても信じられない。さっきまで私の足元でおとなしく座ってたのに、解放された途端にロケットみたいな勢いで芝生を駆け抜けていく。耳が後ろにぺたんと倒れて、口を半開きにして、尻尾はくるんと巻いたまま。柴犬が全速力で走る姿って、なんていうか、生きてる喜びそのものって感じがする。
あの日は本当にいい天気だった。5月の終わり頃で、まだ暑すぎない時期。空は抜けるような青さで、雲がぽつぽつ浮かんでて、風が吹くたびに木の葉がさらさらと音を立ててた。公園の芝生は少し湿ってて、朝の水やりの跡が残ってたのか、草の匂いが濃く漂ってた。犬を遊ばせるには最高のコンディションだと思う。暑すぎると柴犬はすぐバテるし、寒いと私が辛いし。
ボールを投げると、柴犬は猛ダッシュで追いかける。でも取ってこない。これがうちの犬の困ったところで、ボールをくわえた瞬間に「これは俺のもの」モードに入ってしまって、絶対に返さない。遠くで得意げにボールをくわえたまま、こっちを見てる。返してよって言っても知らんぷり。仕方ないから近づくと、また逃げる。追いかけっこが始まる…っていう流れ。
前にドッグトレーナーの友人に相談したことがある。彼女は「柴犬あるある」って笑ってた。「レトリーバーじゃないんだから、持ってこいは期待しない方がいいよ」って。まあそうなんだけどさ。
公園の隅の方に、老夫婦が座ってるベンチがあって、そこからいつも犬を眺めてる。たまに「元気な子だねえ」って声をかけてくれる。私も「ありがとうございます」って答えるんだけど、内心では「元気すぎて困ってます」って思ってる。だって本当に疲れ知らずなんだもん、この犬。
走って、転がって、また走って。柴犬は芝生の上で仰向けになって背中をこすりつけたりもする。あれ、気持ちいいのかな。背中が痒いのか、それともただ楽しいのか。表情を見てると、完全に楽しんでるっぽい。目を細めて、口角が上がってて、幸せそのもの。
ふと気づくと、別の犬連れの飼い主さんが何人か集まってきてた。柴犬同士で遊ばせようとしてるみたいだったけど、うちの犬は他の犬にあんまり興味がない。挨拶程度に鼻を近づけて、すぐに離れていく。人間でいうと、パーティーで知らない人に会っても軽く会釈するだけで、すぐに一人になりたがるタイプ。社交的じゃない。
そういえば、この公園で初めて柴犬を遊ばせた日のことを思い出した。リードを外すのが怖くて、最初は長いロングリードをつけたまま走らせてたんだ。でもそれが木に引っかかって、犬が急停止して、私が転んで、膝を擦りむいた。恥ずかしかった…周りに人いたし。
今は慣れたもんで、リードなしでも平気。この公園はドッグラン代わりに使えるエリアがあって、柵で囲まれてるから安心。「パークサイド・ドッグフィールド」っていう名前がついてるけど、誰もそんな名前で呼んでない。みんな「犬エリア」って言ってる。
太陽の光が強くなってきて、影が短くなってきた。そろそろお昼か。柴犬は相変わらず走ってるけど、さすがに舌を出して息が荒くなってきた。水を飲ませないと。ペットボトルと折りたたみの水入れを持ってきてたから、木陰に移動して休憩。
犬が水を飲む音って、なんか好き。ぺちゃぺちゃって音を立てながら、必死に舌で水をすくってる。飲み終わると、満足そうに座り込んで、また周りを見渡してる。まだ遊び足りないって顔してる。
結局、2時間くらい公園にいたと思う。帰る頃には柴犬も疲れたのか、おとなしくリードをつけさせてくれた。帰り道、犬は時々振り返って公園の方を見てた。もっと遊びたかったのかもね。
家に帰ったら、犬は水を飲んですぐに寝た。私も疲れてソファに座り込んだけど、なんだか満たされた気分だった。次はいつ行こうかな、なんて考えながら…またすぐ週末が来るんだけど。

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